コラム・インタビュー

シンガーソングライター 新沢としひこ

今の仕事をはじめられたきっかけを教えていただけますか?

子どもの頃から音楽が大好きで、高校の頃から友達とバンドを組んでオリジナルの歌を作ったりしてたので、将来音楽を作る仕事とかしたいなと思っていたんです。僕は、結構若い頃から子どもの歌もよく作ったりしていて、例えば、19歳の時にライブハウスに出ていたんですけど、大人の恋愛の歌と同時に子ども達が歌うような歌とかも歌っていたので、きっかけっていえばそれがきっかけなんですかね。

 

 

もっといえば、大学の4年間アルバイトしていた保育園に湯浅とんぼ先生っていう遊び歌を作る先生がいまして、その先生に「新沢くん、音楽やっているんだったら遊び歌とか作ってみない?」って言われたのがきっかけで、とんぼ先生の保育講習会とかにアシスタントで参加するようになり、伴奏とかをやらせてもらうようになっていったんです。ある時、まだ若者の僕に、「次は、新沢くんのコーナー!!」とかいって、ステージをやらしてもらったこともありました。また、講習会の講師を一人でまかせてもらったこともありました。

 

そして、大学4年生になった頃には、とんぼ先生と僕が作った歌が50曲ぐらいになってて、オリジナルのカセットテープにして発売しようと言いだした人がいまして、それが作曲家の中川ひろたかさんなんです。作品は、中川さんのプロデュースで作り込んでいったんですけど、それを作っていくうちに、中川さんとも仲良くなって、ある時、「新沢は将来何をしていきたいんだ?」っていうふうに言われたことがあって、「とんぼ先生との時には、僕は作曲をしてきたんですけど、実は作詞をとってもしたいんです」って答えたことがあって、中川さんがそれをとてもよく覚えていてくれて、中川さんが雑誌の連載のお仕事をする機会に、「あ~、そういえば、新沢は作詞がしたいって言ってたな~」って思い出してくれて、「一緒に歌を作ろう!連載をしよう!!」って、声をかけてくれたんです。それで僕の詩に中川さんがたくさん曲をつけてくれて、雑誌なんかで発表するようになっていったんです。だから、僕がたくさん歌をやってこれたのは、とんぼ先生と中川ひろたかさんのおかげっていう感じで、今の活動はかなり作詞の部分が多いので、それは中川さんと一緒に歌を作ったからということが結構大きかったりするんです。

後に、とんぼ先生がいる保育園に就職することになるんですけど、実は、とんぼ先生は、僕の父親の知り合いだったんです。父は保育園の園長をやっていて、母はその保育園に勤めている保育士だったんです。だから、そういう意味では、保育の世界っていうのは、幼い時からすごく身近な世界でしたね。保育園へ就職が決まった時、随分大きな選択をしましたねってよく言われたんですけど、周りがそういう人たちばっかりだったんで、僕にとっては、ちょっと家業を継ぐぐらいの気持ちっていうか、全然抵抗のない世界だったんで、逆に普通にサラリーマンで勤めたりする方が、冒険っていう感じで、大学生の時に保育園にアルバイトにいったりしたのも、父親の知り合いのところに手伝いに行ったみたいな感じだったので、あんまり思い切った選択とかじゃなかったですね。

 

お仕事をする上で、大切にしている事ってどんなことですか?

大人が子どもの世界をやる時って、どうしても大人が子どもにいいものを与えてあげるみたいな上から目線っていいますか、そうなりがちだと思うんですけど、そうならいように気をつけたいなと思っています。よく子どもの歌をやっていらっしゃる方って、大人の歌は大人の歌、子どもの歌は子どもの歌っていう考えの方が多いと思うんですけど、僕はあんまりそういう風に思っていなくて、子どもにも分かる言葉で書いた大人の歌だったりもするんです。実は、最初の頃は、これは童謡ではないって言われたりとか、ちょっと大人っぽすぎるって、子どもの歌の世界は違うでしょって批判されたこととかもあったんです。なんかそういう童謡の団体の方たちに認めてもらえなかったりとかそういう時代も長かったんです。ただ、いくら大人っぽいと言われても、自分が思うものを書いてきたんですけど、結果的には、現場の子ども達が支持してくれたっていうか、選んでくれたっていうか、とにかく現場の子ども達が歌ってくれたことが、僕の自信につながりましたね。

子どもって大人が思うよりもずっと大人っぽいんじゃないかって思うし、逆に、大人って子どもが思うよりも子どもっぽいんじゃないって思ったりしてて、結局、人間って全部子どもから大人ってつながってたりとかすので、そういうところを大事にしたいなって思いますね。

 

 

今の仕事をしていて良かったなと感じる時は、どんな時ですか?

J-POPにしても、演歌にしても、大人が聴く歌っていうのは、歌手の人がいて、その歌う人の歌っていうか、ミスチルの歌はミスチルの歌、サザンの歌はサザンの歌って決まってたりするじゃないですか。でも、子どもの歌って、「さっちゃん」とか、「ぞうさん」とか、「しゃぼんだま」は誰の歌っていったら別に誰かって言えないですよね。みんなが歌う歌っていうか、だから、僕が作っている歌っていうのもそういうジャンルのところがあって、誰が歌ってたとか、誰の持ち歌だとか、誰が作ったとか、あまり意識いしないで歌ってくれている事が多いと思うんですけど、そういうのってすごく面白いことだなぁ~って思ってて、すごくいい仕事だなと思ってるんです。

それから、いわゆるCDとかでヒットしている歌っていうのは、そのヒットしている期間だけが有名だったりして、時期が過ぎるとあれは古い歌とか、昔の歌、流行遅れの歌っていう感じが出てきちゃうと思うんですけど、子どもの歌って言うのは、そういうところがなくて、ロングセラーっていうか長く歌われたりすると、あまり新しい古いって関係なくなるっていうか、今でも「ぞうさん」も「さっちゃん」もバリバリ現役の子どもの歌なんですよね。それは、もう40年、50年って世界なんで、これはすごく素敵な世界だなって思っていて、自分でも今歌っている歌が、中川さんと20年以上も前に作った歌とか歌ったりしているんですけど、そういうことができるっていうことはありがたいことだなって思います。

 

 

最後に、このコラムを見ている読者に向けて何かメッセージをお願いします

小学校に行くと子ども達って、成績をつけられるようになって、国語ができる子できない子、体育ができる子できない子、算数ができる子できない子っていうことで、能力別に点数がつけられていく世界に行くわけですよね。まあ、それは、人間としてそういう部分も必要かと思うし、頑張って努力したりとかあると思うんですけど、それ以前に、例えば、生意気だったり、のんびりだったり、慌てん坊だったり、全然しゃべらない子もいれば、おしゃべりが止まらない子もいると、それをそのまんま、それだっていいよねっていえるのって、幼稚園とか保育園の時代だって思うんですよ。で、小学校に行くと、どうしても「ここができないからダメでしょっ」とか「算数できないからダメでしょ」って言わなくちゃいけないけど、成績をつけたりしなくていいっていう時代って実はすごく大事で、これから小学校に行って、辛いこともあるかもしれないし、勉強できないとか、集団行動が取れないって怒られるとか、なんかいっぱいあると思うんだけど、でも、幼稚園、保育園の時代は、それでも構わないよっていうか、今の君を大事にしなさいって一番いっぱい言ってあげられる時期だと思うんです。それで、自己肯定感っていうか、「自分は愛されているんだ」とか、「みんなに望まれているんだ」とか「可愛がられているだ」って言う気持ちをいっぱいにして、それで小学校に行ってから嫌なことがあっても、乗り越えていくっていうことがすごく大事だと思うんです。だから、その愛情をいっぱい補充してあげられるところを保育園の先生って担っていると思うので、とても大事な仕事だなって思うんです。特に、子どもたちは遊びの中で色々な事を学んでいったりとかするわけですけど、小学校に行くと、遊びっていうのは、休み時間に遊ぶものとなっているけど、幼稚園、保育園の時代は遊ぶってことがメインだったりとかするので、そういう大切な時間ををいっぱい作ってあげるっていう意味で楽しい保育園生活を送るっていうのは子どもにとって、とっても大事なことで、そういう事を担った素晴らしい仕事だと思うので、重要な仕事だと思って欲しいし、素晴らしい仕事だと自信とか誇りを持ってほしいなって思っています。

 

 

≪2012年1月11日 インタビュー≫

 

新沢としひこ
≪プロフィール≫
シンガー・ソングライター・作詞家・作曲家であり、絵本作家・児童文学作家でもある。

子どもの歌から大人向けのポップス作品まで、幅広く作品を作り、特に作詞した「世界中のこどもたちが」「ともだちになるために」「にじ」「さよならぼくたちのようちえん」などが幼稚園・保育園・小学校でよく歌われ有名。

シンガーソングライターとしても評価が高く、ソロの作品は世代・性別を超えて共感を呼ぶ。ライブではMCが軽妙で、泣かせて笑わせるシンガーソングライターとも言われる。

≪主な活動履歴≫
学生時代よりライブハウスに出演し、音楽活動を始める。

保育園で保育者を経験後、保育雑誌に歌を連載(作詞・新沢としひこ、作曲・中川ひろたか)。この連載から「世界中のこどもたちが」が生まれた。

1991年作曲家・浅見昂生とのデュオグループ「Mr.ユニット」でワーナーミュージックよりCDデビュー。

1993年に解散後、ソロ活動に。

コンサートのほか、保育士・幼稚園教諭向けの講習会講師としても活躍。あそびうたなどの著作も多数。

コラボレーション作品も多く、工藤直子、クニ河内、ケロポンズ、中川ひろたかなど、多岐に渡りCDや楽譜集を制作・共演。

また、絵本・紙芝居・児童文学・エッセイの執筆も手がける。

絵本では、歌の歌詞を文とし、絵をつけて絵本になった作品も多い。

新沢としひこ(アスク・ミュージック ホームページ)

 

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