めぐみ先生の保育コラム

これからの保育士に求められる子どもを理解する力

 

 

最近、「保育士の専門性」という言葉に注目が集まっています。医師や看護師、弁護士、教師などと同様に保育士も専門職のひとつです。しかし、「保育士の専門性は?」と聞かれると、現役の保育士であってもうまく答えられない方が多いようです。

今回は、保育士の専門性とは何か、保育士だからこそできることは何かについて、考えてみたいと思います。

 

育児の知識や情報は誰でも調べられる時代

おむつ外しやイヤイヤ期、離乳食の与え方について調べる時、多くの保護者がインターネットを利用しているそうです。キーワードを入力して検索すれば「おむつ外しの方法」や「イヤイヤ期の対処法」といったノウハウが山のようにヒットします。また、書店には多くの育児書が並んでいるため、子育ての専門家である保育士に質問しなくても知識を身につけることができるのです。

そのような現状を考えると、世間が保育士に求める資質は “育児に関する知識があること”だけではないような気がします。

 

一人ひとりの子どもを理解する力

育児書やインターネットのノウハウ記事を読んでみると、「8ヶ月頃にハイハイを始めます」など、平均的な情報や成長の目安が書かれていることが分かります。一般的な子どもの成長発達を理解する上では必要な情報ですが、子どもたちには一人ひとり異なる個性があり、家庭環境もそれぞれ違います。

保育士にもとめられる専門性とは、一人ひとりの姿に焦点を当て、適切なアプローチを考えていくことではないでしょうか。

 

子ども理解の事例

 

 

2歳を迎えてもなかなか言葉が出てこないAちゃんという子がいました。子どもが言葉を発するまでには、周囲の大人の働きかけが大切であると言われているため、心配する保護者に対し「おうちでAちゃんにもっと声かけをしてみてくださいね」というアドバイスが適切であるかのように思えます。

しかし、Aちゃんのバックグラウンドに目を向けてみると、違うアプローチの仕方が見えてきます。

最近のAちゃんは、担任に抱っこをせがむことが多く、お散歩にも出たがらない姿が見られます。一方でAちゃんのママは、いつも仕事以外の用事で忙しそうなのです。連絡帳を書く余裕がない日もあります。ママに対し担任がさりげなく配慮の声かけをしてみると、どうやらここ1年ほど、同居しているおばあちゃんの介護が大変だったようで、Aちゃんにかまってあげられなかったのだと涙ながらに打ち明けてくれました。

この事実が分かってから、担任はAちゃんママに対し「ママ、最近眠れてますか?」「連絡帳を書く時間がなかったら口頭でも大丈夫ですよ」など、家庭の事情に配慮して言葉掛けをするようにしました。

ママの気持ちも和らいだのか、Aちゃんを抱っこして歌を口ずさみながら登園する姿が見られるようになりました。次第にAちゃんの情緒も安定し、みんなと一緒に落ち着いて読み聞かせを聞いたり、少しずつ言葉が出てくるようになりました。

 

子どもの姿を中心に、取り巻くすべてを見る

園生活の中で見えてくるのは、目の前にいる子どもの姿だけです。しかし、「昨日のその子の姿」「保護者から聞いている家庭環境」「ここ1ヶ月の体調」など、目に見えない情報まで視野を広げてみると、一人ひとりに対して適切なアプローチの仕方があることに気づくのです。また、保護者に対してどんな言葉掛けをするのが適切であるかが見えてきます。

これは、インターネットの記事や育児書を読んで一朝一夕でできることではありません。

子どもを見る力、子どもの育ちの土台である家庭との連携を図る力。それこそが、『保育士の専門性』ではないかと思うのです。

 

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佐藤愛美(さとうめぐみ)

保育ライター。保育園や子育て支援施設にて担任や育児講座等の業務を経験。2016年にはフリーライターに転身。保育園の取材記事やコラムなどを中心に執筆し、現在に至る。

保育の仕事の魅力や、現場で活躍する保育者たちの生の声をお届けします。

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